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原稿をこの書いている最中にウォルグリーン本社から、NO.3のライトエイドの買収に関して双方が合意したというメールが飛び込んできた。今後実現の為 には独禁法に触れないか司法の判断が必要になる。かつては「中古車は新車より良くはならない」という表現で買収をしなかった企業が、アライアンスブーツや米国の大手及び中小のドラッグストアの買収を積極的にしている。このように、朝令暮改でないが「地域の人々の健康作りに貢献する」という企業理念を実現するために、柔軟な対応をするのがウォルグリーンだ。ディスカウントストアなど強敵との競争にさらされながら、米国のドラッグストアが勝ち残ってきた要因の一つは、この「柔軟性」だ。日本のドラッグストアも今後勝ち抜いていくために、米国のドラッグストアの柔軟性が参考になるだろう。
まず米国のドラッグストアは2014年度も5%強の売上成長を記録した。医療保険制度改革(通称オバマケア)及び高齢社会による調剤薬枚数の増加、フロントエンド商品の買い物がし易くかつ雰囲気の良い店舗デザイン、セルフメディケーション促進によるOTC及びサプリメントの成長、高額ライン化粧品や専売品化粧品を強化するビューティーケア、デリカやサンドイッチ・焙煎し立てのコーヒー・アイスクリームなどの即食フードやイートインコーナーの導入、ストアブランドの強化、インストアクリニッックの積極展開、オムニチャネル戦略の導入によるネット販売の拡大、より小商圏化することによる便利性の強化等の戦略が現在の消費者に支持されているからだ。これらの多くの戦略が21世紀に入り強化された。消費者のドラッグストアに求める「専門性」「便利性」「接客性」「エンタメ性」を柔軟に深堀しているのだ。

米国ドラッグストアは今後も堅調に成長が続くと予測されている。
それは下記のように戦略を柔軟に転換し、時代にマッチした対応をしているのだ。
旧戦略
|
新戦略
|
変換のポイント |
HBC(へルス&ビューティー
ケア)ストア |
HDL(へルス&デイリー
リビング)ストア
|
デイリーリビング商品(日常生活必需品)その中でも特にフードを強化することにより、顧客の来店頻度を増加 |
ファーマシー |
ヘルスケア
ステーション
|
医師の処方箋に応じた薬の提供業から、患者の疾病・健康管理(インストアクリニック)・薬の提供及び服薬管理・介護&看護及び予防接種つまり予防・治療・ウエルネスまでのヘルスケアの提供
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リアル店舗 |
ムニチャネル(リアル
店舗+ネット)
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客が店に来るのを待つのでなく、人々の「いつでも」「どこでも」「何でも」ニーズを解決
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効率優先 |
ウエル・エクスペリエンス |
商圏ニーズに合った品揃えと、顧客の快適な買い物体験の提供 |

【ドラッグストアの商品構成の推移】
部門 |
2014年
|
2011年 |
1991年 |
売上金額($億)
|
シェア(%) |
シェア(%) |
シェア(%) |
調剤薬 |
1862
|
64.4(−) |
66.9(−) |
34(−) |
OTC/ヘルスケア
|
327
|
11.3(31.7) |
10.1(30.5) |
15(22.7) |
コンビニエンスフード |
312 |
10.8(30.3) |
9.3(28.1) |
8(12.1) |
パーソナルケア |
171 |
5.9(16.6) |
5.4(16.3) |
10(15.2) |
コスメティック/フレグランス |
95 |
3.3(9.3) |
2.9(8.8) |
5(7.6) |
消耗雑貨 |
64 |
2.2(6.2) |
2.4(7.3)
|
5(7.6) |
ジェネラルマーチャンダイズ |
46 |
1.6(4.5) |
2.3(6.9) |
18(27.3) |
事務・学校用品 |
15 |
0.5(1.4) |
0.7(2.1) |
5(7.6) |
合計 |
2892 |
100.0(100.0) |
100.0(100.0) |
100.0(100.0) |
(注)シェアの( )内数値は調剤薬を除いたフロントエンドにおけるシェア
(資料)2011年及び2014年はRacher
Press Research、1991年は筆者編集
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a) コアコンピテンスとして調剤の強化
米国ドラッグストアの1991年〜2014年までの、部門別シェアの推移を見てみると、一番大きく変化したのは調剤部門で、売り上げ構成比は1991年の34%から 2倍以上(2008年は74%)になるという拡大ぶりだ。1980年代からウォルマートを代表とするスーパーセンターやスーパーマーケットがドラッグストアの商材をラインロビングし、売り上げの拡大を試みた。対抗上ドラッグストアは今までの雑貨を多く取り扱ったジェネラルストアフォーマットから、他業態との差別化の為にヘルスケアの専門性を図かり、調剤に力を入れたのだ。今では調剤のないドラッグストアはドラッグストアとは認められないほど、調剤はドラッグストアの信頼と看板になった。その調剤の現状について述べてみよう。
国民皆保険を目指したオバマケアと呼ばれる医療保険制度改革が、保険を持つ人の増加を呼んでいる。そのため殆どの人が調剤薬を求めるとき、価格より便利さが決め手になっている。便利性を武器にするドラッグストアには大きな追い風だ。そして消費者は調剤のついでにドラッグストアのOTC、ビューティーケア、コンスーマブル、インストクリニック(予防接種、健康診断、軽医療のため)を利用している。
調剤市場の成長は今後も堅調で、2014年は6.8%、2015年は6.4%、そして2019年まで5%台の成長が見込まれている。医療保険制度改革による保険適用者の更なる増加や高額なスペシャリティドラッグ(ガン、エイズ、臓器移植、小人症など特殊な病気用の薬)が近い将来保険対象になること、そして高齢者の急増が大きな要因だ。
【調剤薬の売上金額伸長予測】
年度
|
前年比
(%)
|
2013年 |
+0.6 |
2014年 |
+6.8 |
2015年 |
+6.4 |
2016年 |
+5.1 |
2017年 |
+5.2 |
2018年 |
+5.4 |
2019年 |
+5.9 |
(資料) Chain Drug Review |
b) 変化するフロントエンドの商品部門
2008年に74%に達した調剤の構成比をその後意図的に下げていった。それは保険会社が力をつけたことにより、調剤の利益率が低下し儲けの低い部門になってしまったからだ。逆にフロントエンドに力を入れることにより、利益の改善を図った。フロントエンドの中でも特に力を入れたのがコンビニエンスフードで、その商品構成シェアは1991年の12.1%(調剤を除いたフロントエンドの構成比)から2014年には2.5倍の30.3%にもなった。これは顧客のフードに対する高い需要と、来店頻度向上という店側のニーズがマッチしたのだ。またOTC&ヘルスケア及びビューティーケア(パーソナルケア+コスメティック/フレグランス)もフロントエンド商品の売り上げ構成比でシェアを伸ばし、ドラッグストアの重要な部門としての位置づけを確保している。一方ジェネラルマーチャンダイズ部門は縮小され、フロントエンド売り場におけるシェアが1991年の27.3%から4.5%に下落した。

a) ホームヘルスカテゴリー
ドラッグストアにおけるホームヘルスカテゴリー(介護・看護)が毎年成長し注目されている。それは毎日1万人が65歳のシニア年齢になっているからだ。しかしシニアの人々だけがホームヘルスケア商品を必要としているのでない。実際にリュウマチ患者53百万人の2/3は65歳以下の人々だ。また65歳以上向けの公的保険メディケアの対象になる車いすやベッド等の介護機器が少なくなり、ホームヘルスケアビジネスは保険対象外の商材が多くなっている。この傾向はドラッグストアをやる気にさせている。今後ドラッグストアは介護に関するトレーニングを充分受けた人の確保や、セルフサービスで顧客に訴求できる販売方法の構築が求められている。ホームヘルスケアコーナーの顧客はまずケアギバー(介護人)だ。50代の女性が多く、フルタイムの仕事を持っていたりするため非常に忙しい。そのためケアギバー及び介護される人の質の高い生活を提案することで顧客はロイヤルカスタマーになる傾向がある。
【ドラッグストアにおけるホームヘルスケア(2014年)】
商品
|
金額($百万ドル)
|
前年比(%)
|
大人用失禁用品
|
463
|
+4.3 |
筋肉/ボディーサポート用品 |
394
|
+6.1 |
ファーストエイドテープ/絆創膏/ガーゼ
|
372
|
+2.0 |
救急医療薬品 |
369
|
+5.7 |
外用鎮痛用品 |
242 |
+5.7 |
ヒート/アイスパック |
130 |
+1.2 |
(資料)IRI |
b) リテールクリニック
リテールクリニックの件数が増加している。2000年に導入され現在では約2000ヶ所あり、2016年末までに3000ヶ所になると予測されている。それは患者からのニーズが高いことと同時に、儲けが薄い調剤と違い利益が取れるということが背景にある。患者訪問数は2014年度で10.5百万人を数え、売上金額で10億ドルになる。これだけ人気があるのは「低コスト」、「質が高いこと」、そして「便利性」の3点だ。保険保有者に対しての一般的な費用は、医師は160ドル、救急医療センターは570ドルだがリテールクリニックでは110ドルと低額だ。1疾病で計算すると医師に行くより262ドルの節約になる。緊急医療センターに担ぎ込まれるケースの27%はリテールクリニックで対処出来、それらを計算すると44億ドルの医療費の節約にもなる。患者がリテールクリニックを選択する理由の一位は時間の便利性(59%)、2位が予約不要(56%)、3位が立地の便利性(48%)そして4位が低い費用(39%)だ。患者の満足度調査では95%という高いスコアを獲得している。
【小売企業別クリニック数】
リテールクリニック
|
クリニック数
|
CVS・ミニッツクリニック |
971
|
ウォルグリーン・ヘルスケアクリニック |
440
|
クローガー・リトルクリニック |
170
|
ウォルマート・リテールクリニックス |
106
|
ターゲット・クリニック |
80
|
ライトエイド・レディクリニック |
66
|
(資料)ドラッグストアニューズ2015年8月
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